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初の野崎まど作品です。野崎まどというと僕のamazonオススメ商品に”独創短編 野崎まど劇場”なるものが表示されて以降、自分で自分のことを独創とか言っちゃうあたりから西尾◯新のような面倒くさいタイプの作家なのかもしれないと敬遠していたのですが、特に読みたいものもないしたまたま手にとった本作を購入するに至ったわけです。
しかし読んでみるとそんなことはまったくなくて、設定も練ってあるし文章も読みやすいし想像していた作風と違っていて。困ったな、この作品だけで好きな作家の一人になってしまった…。


ネットワークに常に繋がれるようになった人間はどの領域まで踏み込むことができるのか、”知る”欲求を突き詰めるとどこまでゆけるのか、それらを取り巻く社会総体としての意識はどのように変わってゆくのか、そのあたりを考えて書いてある出来のよいお話でした。
死という知の欲求が決して超えることのできない壁の先を知ることが現状の世界に対する知の勝利であると作中の重要人物は定めています。神話から今に至るまでに世界を動かしてきたのは、まさしく知ることへの欲求であることは疑いようがなく、そして知ることによって新たな問題や障害を抱えることになるのも繰り返されてきたことです。知ることがすべてを解決するわけではなく、逆に知ることで何かを不幸に突き落とすこともままあるけれど、それでも知ろうとせずにはいられないのはしょうがないですからね。きっとそういう欲求の最先鋭にはそういうこともあるのでしょう。死後の世界を知る行為は宗教的に思えるのに、あくまで情報の集積によって死後の世界の知に至ろうとするアプローチが、まるで魂の不在を叫んでいるようでそこが科学って感じがしました。
それと、人と人を隔てるものが情報の上では取り払われても、物理的な身体の接触でしか通い合わないものがあると知ってホッとしたという劇中人物の安堵に僕も一番救われました。知るだけではなく、行為として、想いとして、自身に刻みつけなければそれはただの”知っている状態”でしかなく、きっとつまらないものでしょうから。
物語を読む時のそんな哲学的自然科学的な難しいことは考えてないので、いつもどおりの「おもしろかった」で済んでしまうのもどうかと思いごちゃごちゃ考えてみましたが。


野崎まどファンの方々曰く、とりあえず(映)アムリタとファンタジスタドール・イヴはオススメと聞いたのでそのうち読んでみようかと思います。