雨の日のアイリス

「雨の日のアイリス」です。何年か前の電撃小説大賞で最終選考まで残って、それからしばらくの時を経て刊行された作品らしいです。
僕はこの作品、好きです。僕という人間はちょろい上に悪食なので、真正面ストレートな作品なら大体好きになってしまう奴なのです。ちょろすぎです。ちょろいついでに感想書きます。


物語としては直球なのですが、こういう読後に心がほんのりあたたまる作品はいいものですね。主人公のアイリスはロボットなのですが、ロボットというだけで心は人間そのもので、アシモフの三原則うんたんとかそういう小難しいSFの論議を持ち出すのは筋違いです。この物語は、アイリスという少女の心を持ったロボットが生き方を見つめ直すお話なのです。まぁ確かにご都合主義すぎるだの薄っぺらいだの言われるのは致し方ないとは思いますが、それは個々人が物語に何を求めているかでウエイトが変わるものなのでしょうがないでしょう。僕が物語に求めてるのはリアリティじゃなくて説得力なので、現実感に満ちていなくても、物語に重みがなくても、僕がきちんと人物の心情に共感できればそれでいいわけです。その共感できるという部分で、この作品の登場人物は素敵だったと思うわけです。主要な登場人物はみんな真っ直ぐで、優しい心を持っています。それが出来すぎなのはわかりますが、それでいいんです。
そういう善人と悪人がはっきりしていてご都合主義的なところは童話的と言ってよいかもしれません。あー、主人と離れ離れになってひどい場所から色んな仲間の力を借りて無事に脱出大団円みたいなのは確かに童話っぽい。この作品ではロボットに恋愛も含めた諸々の感情が当然あって、それをそういうものだと思わないとつらいかもしれません。その、AIとかロボットに感情が生まれてゆく様を物語の本質に求めている人は、そのあたりでは期待はずれになるかと思います。AIとか書いて思い出したけど、そういえばどことなくスピルバーグ監督のAIを思い出させる内容ですね。


本作で目からウロコというか、そういえば自分が今まで触れた作品では見たことがなかったのが身体の入れ替わりというやつでした。ラブコメやらでごっつんこして中身が入れ替わるとかそういうのはお決まりなわけですが、ロボットの身体を換装するのは僕にとって斬新でした。ロボットの頭脳部分というかプロセッサというか、そういうところに意識が宿っているとしたらボディ部分がガラリと変わってしまうことはあり得ることですよね。主人公に感情移入しすぎる僕にとって、第二章でポンコツな無機物的ロボットにアイリスが換装されてしまったのは本当にショックでした。ちょっと涙目になりました。それを言いながら、お恥ずかしい話、第一章の最後での解体にはやや興奮したりしてたのですが…。


あと、この作品で欠かせないのは博士とアイリスのきゃっきゃウフフな要素です。人によってはもっと複雑怪奇な恋模様が好きって人もいるかもしれませんが、こういうピュアtoピュアな関係もあっていいんじゃないでしょうか。博士は少女というには年食ってるから少女と女性の二人暮らしになりますが、こういうのっていいですよね。最後にはアンドロイド少女同士の暮らしになるんですよ、こういうのもいいですよね。
それでも、僕が一番いいなと思ったのはリリスとボルコフの関係で、なんというか、こういうのはアカンですな。普通に悲しくなってしまう。物語の物語性ではなくて関係性で共感して琴線に触れてしまうあたり、僕が大衆的である気がします。悲しい。まぁいいけど。
余談ですが、物語の最後で脱走の際に散り散りになった仲間達から連絡が入る演出めっちゃ好きです。


相変わらずめっちゃ好きしか連呼できない僕ですが、ライトノベル本来の間口の広さはこういう作品のためにこそあってほしいなぁと思います。そんなことを言い出すと、今のハーレム物無双な状態もハーレム好きの人にもそういう信念があってあちらが多勢だからと返されればぐうの音もでないのですが…。「ある日、爆弾がおちてきて」とか「ミミズクと夜の王」とかいったタイプのライトノベルめっちゃ好きなのでもっと増えて欲しいです。すでに結構たくさんあるなら、何かオススメを教えてほしいです。
そんなわけで「雨の日のアイリス」、とても悲しいけれど優しいお話で大変な僕好みでした。