OUT OF CONTROL

今最も熱い作家、冲方丁氏の作品集。僕の中ではSF&バイオレンスなイメージのある作家でしたが、氏の多才ぶりに驚かされました。
かなり印象に残る作品だったので短編それぞれについて軽く感想をば。


『スタンド・アウト』。冲方丁氏の生い立ちに関しては知悉していませんが、どうやらあとがき解説によると主人公の少年の背景に氏と重なる部分が多く見られるとか。でも、僕は読んでいる時にこの少年は作者の分身なのだろうと思いました。
些細なことほど後々重要だと思えるよ冒頭にもあるように、言葉にすれば深夜徘徊で別の少年たちと一触即発になったというそれだけのことなのだけど、主人公の彼にとってはその出来事こそまさに転機であったという、そういうお話。行き詰まりの感覚とそこから引き上げてくれる何かを自分が持ち得るか考えるのは、誰にだっていつだってつきまとう。そんな心を抱えた少年の、ひとつの脱出。
やはりこの作者のバイオレンスはキレがあるし、英単語とそのルピで二つの意味を付加させる独特の用法のクールさは相変わらずすごい。


『まあこ』、『箱』。これが一番驚きました。天地明察で時代小説も書ける多才なのだと知っていましたが、ホラーもお手の物とは。すごい。


『日本改暦事情』。これは天地明察の雛形になった短編ですね。未だ天地明察は読んでいないのですが。どちらかというと池波正太郎氏よりは司馬遼太郎氏の時代小説といった様子でした(非常に感覚的で説明するだけの言葉を持っていないのがアレですけれど)。確かに、短編で終わらせるには惜しいだけの魅力ある設定と人物だと思いました。


デストピア』。これは、うーん、見たくもない現実をナイフで切り裂きたいと思ったこともないし、こういう自意識のこじらせたお話はいまいち僕には響いてきませんね…。


メトセラとプラスチックと太陽の臓器』。これは非常に面白かったです。科学技術の発達によって寿命が延びるとどんなことが起こるのか。生命の枠組みが変わると社会の枠組みも変わり、それによって当然人の在り方や考え方も変わってゆく。最近はこの手の”その先”の在り方を問う作品が……って、これじゃあSFマガジン界隈のその後どうこうの仲間入りしてしまう…。とにかく、興味深い話でした。男女の違いといいますか、父と母の違いみたいなのも好きでした。
この作品と『スタンド・アウト』がこの作品集では白眉でしたね。


『OUT OF CONTROL』。これもホラー気味のお話。解説では制御不能な言葉を〜というのがありましたが、僕にはさっぱりでした。クラッチ文体というんですか、あれの効果は非常に高いと思いました。


そんなわけで以上、ざらっと各作品の印象を述べてみました。
これは冲方丁氏がすごいのか作家という生き物がすごいのかわかりませんが、久々にすごいなぁと感心しながら読んだ作品でした。攻殻機動隊の新作も楽しみ。