スワロウテイル序章/人工処女受胎

いつの間にやらスワロウテイルシリーズもこれで3作目、なにげに息の長い作品になりました。作者あとがきにもありますが、万人に受け入れられる作品ではなくその万分の一の人々にとって心に残るような作品づくり(プロフィールを見る限り籘真千歳氏の趣味全開な風ではありますが)を行い、しっかりと受け入れられたためだと思います。
大好きな作品ではありますが、鳥頭なおかげで今作を読むにあたって人物相関や世界設定をきちんと覚えていなかったため、結局前作前前作と再読しました。設定がかなり盛り込まれているので自分で相関表なり年表なり作っておかないといけないかもしれません。SFマガジン11月号に掲載されていたらしいので、可能なら手に入れておきたいですね。


今作は主人公の揚羽が学園に通っていた頃の前日譚になるため、過去作に比べるとコミカルなシーンや笑えるシーンが多めとなっています。悲劇からユーモアを拾い出すのがどうこうと言われたりしますが、学園というギミックがあればこそできることもたくさんあるので、僕はとても幸せです。
作品の構成としては連作中編といったところで、いくつかの事件を解き明かしていくと最後に大きな事件にたどりつくようなお話です。著者が心理学を専攻していたということもあり集団心理や心の在り方などに対する議論が多いのは今までと同じですが、それらはかいつまむ程度にしておいて物語本筋を追っていく読み方でも支障はなさそうです。しかし、著者が最も訴えたい部分というのはまさにその人工物・被創造物に心が宿ってその在り方はどのようなものであるのか、人間とは(人間は)どう向き合っていけばよいのか、ということであると思うので、小難しい議論ではありますがそれらを理解した上でこの作品に親しむのが最も幸せになる方法ではあります。
今作でのキータームは”被創造物の意識はどこに宿るか?”というもので、並列だったり分割だったり寄生だったりと様々な在り方が提示されます。まぁそういう細かいのは置いておくとしても、単にサスペンスとしても楽しめる作品です。個人的には1章が好きだったかな。
そうは言ってもこのシリーズでは単なるハッピーエンドなど甘いものは用意されておらず、過去2作でも登場人物達は何かを手に入れるかわりに他の何かを失うようなお話で、今作もそれを踏襲したかのようにほんの少し苦い読後感があります。それだけ人間とヒューマノイドの共生とは険しい道程で、さらに様々な思惑に翻弄される主人公などは特に苛烈な生き方を強いられるということでしょう。あと、これもシリーズを通した印象なのですが、作中人物が傷ついて失って戦いの末にようやく手に入れるものはあまりに大局的な人類の希望だったりするので、中短期的な目しか持たない僕にとっては「心境が変化しただけじゃん!」というのもあるのですが、恋が世界を劇的に変えるように、心の持ち方は世界を見る目でもあるのでそんなことはないのかな。世界というのは大きな困難をひとつ解決しても、RPGみたいにラスボスを倒して世界は救われた!なんて単純なものではなく、幸せに至る道の障害をひとつ取り除いたに過ぎなくて、その後も痛みや悲しみと共に歩き続けないといけないものだと思うので、僕はこういった”その後の世界”を想像できる余地のある物語は大好きです。
この物語がどう転ぶにせよ、みんなハッピー大団円はまずないだろうなぁ…。


ところで以前よりこのシリーズは表紙に女の子のイラストが入っていることでお馴染みだったのですが、本作ではなんと挿絵まで入っております。それなのにお値段据え置き!SF要素が入ってればなんでもアリな早川書房さん大好きです。挿絵については賛否両論ありましょうが、このシリーズは小難しい話はともかくとして、かわいい人口妖精を愛でてニヤニヤする作品でもありますので、挿絵はアリだと僕は思います。
僕のtwitterのTL上ではスワロウテイルアニメ化待望論が散見されるのですが、もしアニメ化されるとしたら前2作に比べて本作はとても作りやすく、かつ映える場面があるように感じました。非ライトノベル(ここでラノベとはなにかなどと言い出したらまた無用な争いが起こるので放っておきたい)のアニメ化が盛んな昨今、もしかしたらあり得るかもしれないですね。好きな作品のアニメ化が嬉しかったり悲しかったりは自分のその作品に対する印象次第なのですが、このシリーズはきっと嬉しいでしょう。…小難しい台詞回しとかがかなり問題だけれど。


自分の読書傾向が7割ほどがハヤカワの文庫だし、SFマガジンはもしかすると購読すると幸せになれるのかもしれないなぁ。